新しい経済システムと日本の未来(3)

 前回は、政府の緊急経済対策は不十分であること、コロナが収束しても経済がV字回復するのは難しいことを見てきました。

現在、私たちは、おカネが得られないことに今更ながら恐怖を感じているのではないでしょうか。国民一人当たり10万円を配る方針に変わったらしいのですが、先行きは、まだ不透明ですよね。

そこで、今回は、経済の基礎をなしているおカネについて考えてみたいと思います。

1.おカネになぜ価値があるのか?

2.信用創造と預金通貨

3.アベノミクスの失敗

1.おカネになぜ価値があるのか?

第1回目の記事の中で私は、大恐慌の前後から、金本位制から管理通貨制になったことを述べました。

「おカネとは『金』との引換券」だったと言いました。この段階では、金という価値のあるものとの引換券だから価値があると説明できました。

2 Million Yen

しかし、金との引き換えをやめた管理通貨制度の下でも、おカネは信用され流通していますよね?お金は単なる紙切れなのに、一万円札に一万円の価値があるとどうして言えるか、不思議ですよね。

これについては、大学の経済学の授業では、「発行している政府に信用があるから」という説明を時々聞きますが、別の説明があります。

それは、「税金はおカネでしか払えないから」というものです。強制的に政府が徴収する税金は、おカネで払うことが法律で決まっています。税金はみんなが払わなければならないものですから、おカネに対する需要が生まれます。そこに価値が出てくるわけですね。つまり、究極的には、国家が、紙切れに過ぎないおカネに価値を保証しているということになるわけですね。

この点では、大学の経済学で教えている「発行している政府に対する信用があるから」というのもあながち間違いではないように思います。

さて、政府が究極的に価値を保証しているおカネですが、実は、政府が発行するおカネは、「現金通貨」というのですが、日本中を流通しているおカネのたった2割なんです。残りの8割は、「預金通貨」というもので、ちょっと魔法のようなものなんです。

2.信用創造と預金通貨

銀行の口座にある私たちの預金は、おカネが必要な人へ銀行から貸し出すのに使われます。

銀行からおカネが貸し出されて、おカネを借りた人の銀行口座に振り込まれます。おカネを借りた人は、そのおカネを使って、必要なものを買ったり、支払いのために使ったりします。

その時、支払いを受けた人の銀行口座におカネが振り込まれると、そのおカネをまた別の人に銀行が貸し出し、口座におカネが振り込まれていきます。

このように、元の預金を使って銀行によって次々と連鎖的に貸し出しがなされます。そうすると、世の中の銀行の預金額が、全体として何倍にも増えるわけです。

つまり、銀行の貸し出しによって、「預金通貨」というおカネが、新しく創り出されるのです。

これを、「信用創造」と言って、預金通貨の魔法のような性質です。

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しかし、日本銀行の量的金融緩和によって、現金通貨は、アベノミクス前と比べると、約4倍に増えているのに、預金通貨は、ほとんど増えていません。

つまり、この信用創造が起きていないことがわかります。

これが、世の中におカネが回っていない、ということの正体です。

3.アベノミクスの失敗

アベノミクスは、インフレターゲットを設定してスタートした政策です。まず、異次元量的緩和をして(現金通貨を増やして)、企業や個人がおカネを借りやすくして、預金通貨を増やすことによって、世の中にお金を回そう、そして、景気をよくしていこうという政策です。

しかし、この目標は、達成されていません。インフレ目標も達成できていませんし、世の中におカネが増えていません。したがって、景気回復は目に見えては起きていません。

安倍首相は、株価も上がり、雇用も増え、賃金も上昇し、景気もよくなっている、と力説します。

株価が上がっているのは、日銀の量的緩和によって金融機関などの機関投資家が中心に株式投資し、株式ミニバブルが生じ、同時に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが大量に日本株を買い支え、いわば「官制相場」だといわれる状況が生じたためです。一部の富裕層には恩恵があったでしょう。不動産ミニバブルもありましたしね。しかし、これらも、陰りが見えてきました。

雇用が増えたように見えるのは、今や、約4割が非正規雇用で、この非正規が増えたからです。また、賃金は、最低賃金は上がっていますが、社会保険料負担などが増えているので、実質賃金はむしろ下がっています。

Workers March II

人々の生活が良くなった感じがしないのは当たり前です。地方はもっと悲惨です。

こんな状況で、我々の暮らしは、これから先どうなるんでしょうか?

次回は、これからの新しい経済システムについて考えていきたいと思います。