おとなが育つ条件

最近読んだ本に、実は衝撃をうけました。

この本は、ある必要から読んだものですが、その内容に驚いたんです。今まで、考えたこともなかった視点だったので。自分がいかに社会の規範にどっぷり影響を受けているかわかりました。

知り合いの人で、離婚した人がいたのですが、理由はこれか!と思い当たりました。その人は、まあ、悪い人ではなかったのですが、この本が問題のある男性の例として書いてある通りの人でした。ある意味、おとなとして成長していなかった、と言っていいだろうと思います。

離婚した時、奥さんの方から離婚を切り出されたらしいのですが、浮気がバレたのかと思いきや、そうではなかったのです。当人は、その理由が思い当たらない、と言っていました。

僕も、その話を聞いたときは、何故なんだろうと、思いました。僕にも全く思い当たらない視点だったのです。

この本は、まあ、要するに、現在は、少子高齢化の激動する社会で、従来の日本的な価値観、主に、「男は仕事、女は家事育児」というジェンダー規範の変更を迫られている、と指摘しています。これだけなら、「さもありなん、そんなことずっと昔から言われていたことじゃん!何も目新しいものはないじゃん!」と思うのです。

離婚した知り合いの人は、まあ、僕の対極にいるような人で、じっとしていない人です。平日は朝から晩まで仕事、仕事、仕事…、で、休日出勤も厭わない。それで、たまの休みには、やれゴルフだ、釣りだ、山だ、海だ、と独りで出かけてしまうのです。子供も、奥さんも置いてけぼり。まあ、奥さんが、インドア派で、あまり外へ出たがらない人だったこともあるのですが、休日は、ほとんど別行動だったそうです。奥さんは、結婚前は仕事をしていたのですが、結婚して専業主婦になりました。家事育児に専念する立場です。つまり、「夫はしごと、妻は家事育児」という、伝統的な性別分業のカップルです。

事実、その彼は、「俺はお仕事して金を稼ぐ役割、お前は、家事育児をする役割」と、奥さんに宣言していた、というのです。そして、子どもが夜泣きをして眠れないのは、翌日の仕事に差し支えるから、ということで、寝室を別にしていたそうです。

これを読んで、「そんなの当たり前じゃん!」、と思った男性の方々、あなた方は、もう末期です。また、いかにこの伝統的なジェンダー規範が社会に浸透していて、強い影響力を持っているかがわかるのですが。

Family


結婚しても奥さんが仕事を辞めずに共働きしている家庭は、まだマシらしいです。それから、最初から専業主婦志向の奥さんの場合は別のようです。

一番ヤバいのは、結婚前に仕事をしていて、しかも、奥さんが有能で男性と同等の能力を持っていたのに、結婚して専業主婦になったような場合です。こういう奥さんに、最も育児不安やアイデンティティの揺れが大きいのだそうです。

こういう人たちは、学歴も職業体験も男性と同等で、自分の自己実現として能力を発揮する達成感や有能感、自分の稼得で生計を立てる自由を味わっているのに、専業主婦となって、家事育児しかしていない、家事育児が嫌なわけではないが、自分は社会から取り残されている、という疎外感、仕事をして同僚や部下、クライアントなどと交流し、人間的に成長する実感を味わっていたのに、それを絶たれた、という喪失感も持つようです。

こういう感情が鬱積して、育児不安や、アイデンティティクライシスを招き、ついには離婚へと向かうそうです。家庭崩壊だけではなく、児童虐待や、男性の退職後の社会性のなさ、仕事を辞めると自分では家庭のことは何もできないという粗大ゴミ化、介護問題など、つまり、「男はしごと、女は家事育児」というジェンダー規範は、すでに最適性を失って、その弊害が、至る所に露呈されている恰好なのだ、とこの本は詳しく指摘しています。

それなのに、家事育児ひとつとってみても、世の中のたいていの夫は、「家事育児をよくやっている」という自己評価が高く、それに対して妻は、「全然足りない」と思っていることが多いそうです。このギャップは、夫が、他の男性に比べれば俺はやっている、という評価になるのに対し、妻は、自分が普段やっている家事育児の量に比べれば、全然足りない、と思っていることからくるそうです。

離婚した彼も、自分では、「やっている」つもりだったようですが、奥さんに、「休日くらい家にいてよ!」とよく言われていた、そうです。奥さんは、家庭に縛り付けられている、という気持ちを持ったのでしょう。自己不全感なども味わったことでしょう。

また、男性と同等の稼ぎが出来た奥さんが無職になってから、夫に「養ってやっている」という、そぶりをされるのもタマラナイらしいです。女性の結婚満足度、配偶者満足度は、女性側の稼得能力が増すほど、高くなっていると言います。

この本で言われているのは、最もうまくいっているカップルは、夫婦双方とも有職で、家事育児も分担して、家庭と仕事のバランス、つまり、ワークライフバランスの最もとれているカップルで、彼らの結婚満足度も配偶者満足度も最も高い、という調査結果だということです。

現在、若い女性たちの間で、専業主婦志向が強くなっていることも挙げられていますが、これは、時に過労死を招きかねない仕事というものの過酷さと、自分が仕事を持ちながら、家事育児もこなさなければならない大変さ、を見越してのことだろう、と書いてありました。

それでも、やはり、「男はしごと、女は家事育児」という、社会規範は、職場にも隠然としてあります。男性の育児休暇の取得率の異様な低さはこれを裏付けていますよね。

そうはいっても、実際の仕事は甘くないし、上司や同僚の社会規範が昔のままの職場ではなおさら、定時退社なんてもってのほか、仕事をなめるな、と言われそうです。

しかし、男女共同参画社会を目指すなら、やはり男女の家事育児分担は必須のことだし、ワークライフバランスをとることは、とりもなおさず、男女共同で、仕事と家事育児という生活全般を分担することにほかならない、そのとおりだと思います。

僕は、家庭を大事にしているか、今さらながら、少し心配になっています。きっと僕ももっと頑張らなければならないのだろうと思います。