美しい星

三島由紀夫が昭和37年(1962年)に書いた異色の小説です。

その頃、ベルリンの壁が出来、米ソが核戦争の一歩手前まで行ったキューバ危機がありました。

ですので、三島由紀夫の関心は、人類の存亡、人類の文化文明が存続するのか、存続させる価値はあるのか、ということに注がれています。

このテーマを、宇宙人の視点から考えるという体裁になっています。

若干ネタバレになってしまうので、この小説を読んでみたいという方は、以下、すっ飛ばして下さい。

突然、自分たちは宇宙人であることが判ってしまった家族の話です。一家は埼玉県飯能市に豪奢な邸宅を構えている資産家です。

お父さんは火星人、お母さんは木星人、長男は水星人、長女は金星人であることに、それぞれ別々にUFOを見たりして、気づいてしまいます。

お父さんは資産家の息子で、学校を出てから、父親の会社をついでしばらく働くのですが、ちょうどいいタイミングで父親の会社の株を処分して、悠々自適に暮らしています。

お母さんは普通の主婦です。あまり器量はよくないみたいです。

長男は大学で法律を勉強していて、代議士の秘書みたいなことをしています。長女は英文科で、ものすごく美人です。

小説は、一家が、夜明け前に、埼玉県飯能市の羅漢山にUFOに遭遇するために車で出かけるところから始まります。この日の朝4時にUFOが羅漢山の山頂にやって来るというテレパシーをお父さんが受けたので、一家で出かけたのです。

お父さんは、人類はこのままでは核戦争で滅亡してしまうかもしれないと思い、「宇宙友朋会」という会を作り、世界平和の大切さと、UFOの実在を説く、「世界平和達成講演会」を各地で巡回に盛んに行います。家族もそれに何がしか手伝ったりするのですが、水星人の長男は、女の子にちょっかいを出したりしていました。金星人の長女はというと、自分も金星人だという金沢に住む男と文通をしていたのですが、ついに金沢までその男に会いに行って、海辺で一緒にUFOを目撃します。しかし、接吻もしていない、手も握っていないのに、長女は身ごもってしまいます。そして長女は、自分は処女懐胎だと固く信じてしまいます。

一方、人類を核戦争で全滅させるように仕向けてやろうという宇宙人の魂を持った一味も登場します。彼らは、白鳥座の61番星の未知の惑星出身だと名乗ります。そして、ついに、3人の白鳥座星人が、主人公である火星人のお父さん一家のところに押し掛けてきます。お父さんは、白鳥座星人たちと、人類の文明文化、人類の存亡について激しく議論をします。そして、しまいにはお父さんを3人で罵倒して出て行ってしまいます。

白鳥座星人たちが出て行った後、お父さんは胃のあたりを押さえて倒れてしまいました。病院で診てもらうと末期の胃癌でした。一家は、病院から父親を連れ出し、車に乗って、今の生田緑地、枡形山の山頂(?)を目指します。途中で車を捨て、一家は、丘のてっぺんまで何とか歩いていきます。

すると、丘の上には、おそらく彼らを迎えにきたと思われる銀灰色のUFOが着陸しており、緑に、そしてまた鮮やかなだいだい色に明滅を繰り返しているのでした。

こんな話です。

実は、お父さんの家に押し掛けてきた宇宙人たちとお父さんが繰り広げる、とても難しい人類論、人類文明論が長々と書かれています。こういうところがあるので、単なるSF小説ではなく、人類文明批判、現代国際政治批判になっていることがわかります。「もっとも困難な非現実と現実の溶接にこの小説は成功している」と、誰かが言ったそうですが、確かにその通りであると思います。

これ、最近映画化されたそうです。私は、見ていないのですが、ご興味があったらどうぞ。

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それにしても、魂が宇宙人の人、最近たくさんいますよね。ワンダラーとか、スターチャイルドとかいうんですよね。

その元祖がなんと60年近く前に作品になっているなんてすごいですね。三島由紀夫の魂も宇宙人だったのかもしれません。