モンティ・ホールのジレンマ

モンティ・ホールのジレンマとは、テレビのバライエティ番組での次の問題をいいます。

「解答者である番組参加者は、3つの扉の一つを選ぶ。その背後には、当たりの豪華な商品とはずれである、たとえばヤギが隠されている。
解答者が扉Aを選んだ。司会者は、それを伏せたまま、第二の扉、たとえば扉Bを開く。そこには、ヤギがいた。そこで、司会者は解答者に、もう一度、選択し直すことを提案する。解答者は、扉Cに選択し直すことが有利であるか。」



高校レベルの数学では、三つの中から一つが当たる事象と二つの中から一つが当たる事象とは、排反事象(二つの事象が同時に起こらない事象)であるから、二つの行為は独立試行であると解きます。独立試行であるなら、確率は別々に求められ、それは、それぞれ3分の1、2分の1となります。


ただこれには暗黙の前提があります。それは、司会者が、「偶然に」はずれを排除するという前提です。問題的には「司会者が3つのうちの1つをあけたらはずれでした。2つのうちから一つを選ぶ確率を求めなさい」という意味です。

また、高校のレベルを超えますが、これにはベイズの定理というものが使えると思います。ベイズの定理とは、ある仮説の正しさに対する事前確率とその仮説の下でデータが得られる条件付き確率とから、逆にあるデータが得られた下で仮説の正しさを確率的に求める定理です。つまり、前もって推測した確からしさに対して、後でわかった事柄によってどの程度信頼してもよいかということを表す定理です。

一般的には,B が r 個の排反事象に分かれるとき,観察された事象 A の原因が Bj である確率は,Pr{Bi|A}= Pr{A∧B}/Pr{A}=Pr{Bi}Pr{A|Bi}/∑Pr{Bj}Pr{A|Bj}(シグマはj=1からrまで)となります。Pr{Bi}は 事前確率,Pr{Bi|A}は 事後確率 です。

本問では、解答者は扉Aを選んだとして、以下では次の記号を使います。
D:司会者が扉Cを選び、はずれる事象、A:扉Aが当たりである事象、B:扉Bが当たりである事象、C:扉Cが当たりである事象、です。
まず、A,B,Cが当たりである確率はそれぞれ、p(A)=p(B)=p(C)=1/3.
この場合、司会者が偶然、最初にあたりの扉を開けてしまう確率が1/3あります。本問では扉Cを開き、それがはずれでした。この場合に扉A、B、Cがあたりであるとき、事象Dが生ずる確率を求めます。まず、扉Aあるいは扉Bがあたりであるとき、司会者が扉Cを選ぶ確率は p(D|A)=p(D|B)=1/3.次に扉Cが当たりであるとき、事象Dが起こることはあり得ないから、p(D|C)=0.
これより、p(A|D)=p(A)p(D|A)/ {p(A)p(D|A)+p(B)p(D|B)+p(C)p(D|C)}=1/3・1/3 / {1/3・1/3+1/3・1/3+1/3・0}= 1/9 / 2/9 = 1/2

以上から、司会者が三つの扉をランダムに開けているときには、扉Aも、扉Bも1/2の当たり確率を持ちます。したがって、解答者が扉を変えても変えなくても、確率は変わらないので、ベイズの定理を使っても当然正しくなります。

しかし、ここでの場合というのは、司会者が、意図的にはずれの扉を除外した場合なのです。

すると、高校レベルの考えでは、ちょっと苦しいです。

地道に場合を考えて数えていく、という手法を取らずに、数学的なモデルを使ってこれを解くためには、やはりベイズの定理によって解を導くしかないかなと思います。

まず、一般的に
①扉Aが当たりのとき。司会者の選択肢BかCのうち、司会者がCを確率xで開けるとします。とすると、p(D|A)=x.
②扉Bが当たりのとき。司会者の選択肢はCのみで、p(D|B)=1.
③扉Cが当たりのとき。司会者の選択肢はBのみで、p(D|C)=0.
これより
p(A|D)=p(A)p(D|A)/ {p(A)p(D|A)+p(B)p(D|B)+p(C)p(D|C)}=1/3・x / {1/3・x+1/3・1+1/3・0}
= x/9 / (1+x)/9 = x/(1+x)
とくにx=1のとき、p(A|D)=1/2.

ここで、x=1というのは、扉Aが事後的に観れば当たりであるときで、かつ司会者がつねに扉Cを選ぶ場合です。このとき、扉Cを開けて外れだったとすれば、扉Aから扉Bに選択を変えても利点はありません。

しかし、そうではない場合、つまり、事後的に観てAがはずれであるか、または、司会者が扉B、Cのいずれを選ぶか決まっていない場合です。この場合司会者がCの扉を選ぶ確率を2分の1とすると、x=1/2になり、p(A|D)=x/(1+x)=1/2/(1+1/2)=1/3であるから、p(A|B)の余事象はp(B|D)=2/3となるので、Bの扉に変えた方が有利といえます。

正直、こんなに複雑な問題だとは思いませんでした。この問題は、直感に論理がそぐわない場合の例として引き合いに出されることが多いそうです。

しかしよく考えると、司会者が、自分の選んだ残りの二つのうち一つを選択する確率は常に2分の1ではありません。そういう意味では、もうひとつの扉のほうに変えることによって3分の1の確率が常に3分の2になるというのも不正確です。


つまり先の式で、
p(A|D)=p(A)p(D|A)/ {p(A)p(D|A)+p(B)p(D|B)+p(C)p(D|C)}=1/3・x / {1/3・x+1/3・1+1/3・0}
= x/9 / (1+x)/9 = x/(1+x)

このXは具体的には、司会者によって0から1まで変化するのだから、もし、選択の変更によって常に3分の2になるという結論ならは、やはり僕は納得できません。

モンティ・ホールのジレンマはこの本に詳しく載っています。


ポール・エルディシュという大数学者がいたのですが、彼も、この問題を間違ったのだそうです。
僕なんかができなくてもあたりまえですね。

ポール・エルデシュについての本はこちら