アール・ヌーボー




ルネ・ラリックの「蜻蛉の精」。
昔はほんとに恋焦がれました。過去2回ほど実物を見たことがあります。
レプリカがほしい、と本気で思いましたが、今のところ見つけられていません。

ところで、円山応挙の「昆虫写生帖」というのをご存知でしょうか?国立博物館にあるのですが、一部を以前見たことがあります。

応挙をはじめとする日本画家の作品が明治期以降海外に流出し、特にフランスでは、「ジャポニスム」という芸術史上重要なムーブメントになったことはご案内のとおりです。

「ジャポニスム」以前は、フランスの芸術観念として、壮大で、遠景にして素晴らしいテーマが主流で、小さく細かいものは、芸術たりえないように思われていた節がありました。

そこにジャポニスムが起こり、身近な小さいものへ関心が向かうようになり、草花や昆虫が盛んにテーマとして取り上げられました。

特に、アール・ヌーボーは、それまでの直線的で大袈裟な幾何学模様ではなくて、自然界に存在する素朴な草花や昆虫の美をテーマにとり、有機的で官能的な表現を獲得するに至っています。つまり、アール・ヌーボーは、円山応挙がいなかったら生じなかったといっても過言ではありません。

そこで、この「蜻蛉の精」ですが、非常に繊細で優美な反面、どこかエロティックで悪魔的な魅力を備えているといえないでしょうか。

19世紀末の文化の爛熟期に起きた一種の退廃芸術ともいえますが、しかし、人間のリビドーを刺激する何か普遍的な美も兼ね備えています。それは、自然への撞着、回帰、もしかすると現代合理主義文明に対する密かな反逆ともいえるかもしれません。それが、商業芸術から生じてきたのがまたとても面白いと思います。